『海の見える理髪店』(荻原浩)を読んだ感想。悲しくも心温まるストーリー

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海の見える理髪店』タイトルだけ聞いたことがあって興味を持っていました。第155回直木賞受賞作品だったんですね。

この本は、「海の見える理髪店」の他5つの短編集が書かれた家族小説集になってます。

みなさんも「あのときこうしていれば」「あのとき伝えていれば」って思うときがありませんか?

「時を巻き戻したい」そんな風に思う6つの家族の、喪失と希望が描かれた小説の感想を今回は書いていこうと思います。

海の見える理髪店

大物俳優や政治家も訪れる有名な床屋。主人公はある事情から、はじめてこの床屋で髪をカットしてもらいます。

カットをしている間に店主の昔話が繰り広げられ、主人公と店主との特別な時間が始まります。最後にはほっこりするような寂しいような真実があり、読み応えのある作品でした。

 

店主の腰の低い、丁寧な話し方は読んでいてクセになります。

また、店主と主人公の視点が交互に切り替わる書き方はテンポがよく、私には読みやすく感じました。

ここに店を移して十五年になります。

なぜこんなところに、とみなさんおっしゃいますが、私は気に入っておりまして。一人で切りもりできて、お客さまをお待たせしない店が理想でしたのでね。なによりほら、この鏡です。初めての方はたいてい喜んでくださいます。鏡を置く場所も大きさも、そりゃあもう、工夫しました。(p.7)

 

いつか来た道

自分の考えを押し付けてくる画家でもある母から逃げること16年。弟に「母に会ってほしい、今会わないと後悔する」と言われ、再開をすることになった主人公と母のストーリーだ。

 

親の考えを押し付けられて育った娘は、母のことがあまり好きじゃない。幼いころから絵を描くこと、着る服のことを細かく言いつけられてきた主人公。母に会う気はあまりなかった。

私だったら、考えを押し付けてくる日々に耐えられないように思いました。主人公偉いな…。

 

そんな母は、会わないうちに変化をしていた。その理由を娘は再開で知ることになる。

自分の母親が同じ状況になったら、どう対応すればいいんだろう…そんな風に考えさせられるお話でした。

なんでここへ来てしまったのだろう。この人とは二度と会わなくても構わない、そう考えていたのに。来てしまった以上、何か言いたかったし、言いたいことはたくさんあるはずなのに、言葉が浮かばない。この十六年間、心の中では母親に語り続けてきたのに。(p.57)

 

遠くからきた手紙

いつも仕事が忙しいと仕事人間の夫と、口うるさい義母に反発した主人公は、子供を連れて実家に帰省。

しかし、その晩から主人公の携帯あてに不思議なメールが届き始める。

少しファンタジー要素が含まれたこの作品。上記2作品とはちがってほっこりする終わり方のストーリーでした。

 

また、夫のメールは確かにそっけなさを感じました(笑)実家に帰りたくなる気持ちもわかります。

文字数をかぞえてみた。 17字詰めで4行+4、72文字。誠意があるとは言えない少なさですな。誤字もある。どうせ仕事の片手間に打ったんでしょうよ。それと、あんたの場合、Reは消せ。

土?今日は水曜日だ。怒。タクシーを飛ばして新幹線を使えば、孝之の会社からここまでは二時間とかからない。夕食のときにも祥子は、玄関チャイムが鳴るのを待っていた。定時に会社を飛び出て、汗まみれで玄関ドアに立つ孝之の姿を、心のどこかで期待していた(p.88)

結局、自分のために会いに来てくれる、呼び戻してくれる。こういう誠意のある行動が見たいだけだったりしますよね。

主人公の気持ちが、女性なら「わかる!」というシーンが多い作品でした。

 

空は今日もスカイ

親の離婚によって母の実家に連れてこられてきた主人公の茜ちゃん。居心地の悪さから海の見える場所まで家出を決行します。

その道中でお化けが出る神社に行ったり、男の子に出会ったりと、ひとりの家出が新しい友だちを連れての冒険になるのが読んでいて楽しかったです。

 

茜ちゃんは英語も好きで、周りの人をピープルと言っていたり、ところどころで英語を話すのが独特でおもしろいと思いました!

 

しかし、ただの冒険物語とはいかず、子供たちのつらい現状を見るシーンがあります。

ほっこりするシーンと悲しいシーンがうまく描かれおり、読後「この2人が幸せになれますように」と祈ってしまいました。

空はスカイ。

空の色はブルー。

アスファルトが今にも溶けそうな夏の道を、茜はリュックのベルトを握りしめて歩いている。ちょっと前かがみで。日焼けした足を鳩みたいに忙しげに動かして。頭にはベイスターズのベースボールキャップ。(p.123) 

 

時のない時計

父の形見である腕時計をもらった息子は、時計を修理するために時計屋に向かった主人公は父との思いでを断片的に思い出す。そんなストーリーになっていました。

 

仕事ばかりの父で、あまり遊んだりしたことがなかった主人公が、「そういえばこんな人だったな」「こんな一面もあるんだ」と思い出すシーンが多いです。

みなさんも同じように、父や母のことを思い浮かべることがあるんじゃないでしょうか?

回想がリアルに書かれており、主人公に共感できました。家族との思い出を大切にしたくなる、そんな風に思えるお話でした。

父と映画に出かけた記憶は、ただの一度だけ。私が小学四年生か五年の時だ『007』シリーズの、日本が舞台になったもの。父親がいたのは、たぶん自分も観たかったからだと思う。

確かに父はおしゃれだったかもしれない。隣町の映画館へ行くのに、わざわざスーツを着こんでいた。映画のストーリーはきれいさっぱり忘れているのに、そのことを覚えているのは、映画の後のお楽しみだった、デパートの食堂で食事をした時の記憶が鮮明だからだ。(p.180)

 

成人式

中学生だった娘を亡くした両親。悲しみに暮れるなか、ある日成人式の袴のカタログが届いた。娘が生きていたら20歳になる年だった。

悲嘆の日々を乗り越えるため、娘のために両親は娘の代わりに成人式に出ようと計画する、そんなストーリーです。

 

私はこのお話が、1番好きです。1番感動できると思います。

短編のストーリーながら、娘の死と向かうところから乗り越えるまでが濃密に描かれており、1番悲しくも、希望もある作品ですごいと思いました。

 「このままじゃ、俺たち、だめだ」

私も涙声になっていた。

美絵子は四つん這いでうつむいたままディスクを拾い続けている。冷えきった背中は、鈴音とよく似て、なで肩でほっそりしていた。

私は、ふいに思いついた言葉を口にした。

「ねぇ、いっそ成人式に出てみない?」(p.211)

 

今回紹介した本はこちら

最後まで読んでいただきありがとうございました!

 

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